サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】長野大学×サントミューゼ 北尾 亘ダンスワークショップ(集中講義「メディア芸術論」より)

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会場
サントミューゼ

2020.8.21(土)~2020.8.22(日)

 

8月19日から22日にかけ、上田市の公立長野大学とサントミューゼが連携事業として、犀の角、上田映劇、サントミューゼなどを会場に「メディア芸術論」の集中講義を開催しました。

 

講義は急激な社会情勢や産業構造などの変化に伴うまちの課題に対し、文化芸術や芸術拠点というツールを用いどう向き合うか、中心市街地での街歩きや犀の角、上田映劇、サントミューゼの活動などを通して考えるというもの。

 

その中で8月21日(土)・8月22日(日)の二日間、コンテンポラリーダンスのワークショップを通して作品制作から発表を体験することにより、“観る”・“聴く”の次に何を感じるのかを探りました。

 

講師は今年度サントミューゼのレジデントアーティストで、ダンスカンパニーBaobab主宰の北尾亘(きたおわたる)さんとアシスタントの山田茉琳(やまだまりん)さん(以下:茉琳さん)。

 

北尾さんはクラシックバレエからストリートダンスまで多彩なジャンルを経験し、コンテンポラリーダンスに辿り着きました。自ら主宰するダンスカンパニー[Baobab]の全作品の振付・構成・演出を担うほか、ダンサー、振付家、俳優として多方面で活躍。

近年では『DANCE×Scrum!!!』の開催をはじめ、さまざまなシーンでダンスの居場所を模索し続けています。

 

今回参加した大学生のほとんどがダンス未経験というなか、どのようなワークショップを行われたのか、最終日の様子をふり返ります。

 

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8月22日(土)午前9時、北尾亘さんと茉琳さん、そして21人の学生たちが大スタジオに集合し、ソーシャルディスタンスに気を付けながら講義がスタート。

 

 

 

まずは前日に行われた「個人が身体に意識を向けるワークショップ・創作内容の伝達」の復習から。

ストレッチを入念に行った後、前日のワークをおさらいします。

 

 

 

 

「身体の各パーツの動かしやすさや動きづらさ、存在の感じやすさや感じづらさ、いびつさを感じ取る。これだけでも立派な表現、コンテンポラリーダンスになります」

 

 

前日に北尾さんがそうお話していたとおり、学生たちは全神経を自身の身体の動きに集中していきます。

 

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その後は2チームに分かれて通し稽古へ。

 

 

どの学生も未知の世界に真剣に向き合っていて、その表情からは本番へ向けて緊張感と高揚感のある様子が伺えました。

そんな学生たちに応えようと、北尾さんと茉琳さんからは丁寧でわかりやすいアドバイスが続きます。

 

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そして、2日間というわずかな期間で創り上げたダンスの発表を迎えました。

 

 

 

 

 

真っ暗な舞台に一人ひとりの身体を浮かび上がらせるように、そしてソーシャルディスタンスを保つ意味を併せ持つ照明が照らされ、ミニマルなBGMに合わせて身体パーツワークが始まります。

 

 

 

 

その後、BGMは滑らかな曲調に変化。

学生たちは自身の感覚や思うがまま、時にダイナミックに、時に繊細に身体を動かしていきます。

 

そして後半から終盤ではアップテンポなBGMに合わせ、それぞれがいきいきと楽しそうな表情で踊り続け、舞台が暗転、幕が閉じます。

 

学生自身が考えた創作ダンスには個々の個性が自然と反映され、「この動きは何を表現しているのだろう」と考えさせられるような、どこか不思議な魅力に満ちており、学生ならではの若々しさや、溌剌としたエネルギーを感じました。

 

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公演を終えると、学生たちはお互い充実感を分かち合っている様子。

 

学生たちに一連の講義について感想を聞いてみると、

 

「ダンスは未経験だったけど、これを機に初めてみたいなと思いました」

「舞台がどのように作られているのか、また多くの人が関わり合いながら作品を創り上げる面白さを知ることができました」

 

など、学生たちが新たな芸術表現や舞台芸術の内側を知ることができた様子が伺えたワークショップでした。

 

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最後に、北尾さんとアシスタントの茉琳さんに、今回のワークショップについて伺いました。

 

―――長野大学の学生たちの本番公演を終えて率直な感想をお聞かせください。

 

 

北尾)

長野大学の学生はみんなピュアでまっすぐでした。最初からしっかり私たちの目を見て話を聞いてくれる人ばかり。

大体ワークショップのはじまりに興味関心を引き出すフック的な話からスタートするようにしていて、その反応を見て一連の動きを決めています。

その反応がとても速かったので、良い意味でおどろきました。長野県民はシャイだなんて聞きますが、そんな印象はなくて。

もしかしたら学生さん自身も対面で講義ができるという喜びがあったのかもしれませんね。

また、予想以上に学生の皆さんが熱意と集中力を持って臨んでくれました。

こんな短期間のワークショップから公演までを進めるのは本当に難しいことですが、前向きに取り組んでくれたと思います。

 

 

茉琳)

私自身はワークショップで講師をするのが初めてでしたが、学生の皆さんの和気藹々とした雰囲気の中で気持ちよくワークショップをすることができました。

講師という立場でありながら、学生の皆さんから手を差し伸べてもらっているような温かさを感じました。

 

 

―――今回のワークショップのテーマは?

 

 

 

北尾)

“想像力”と“可能性”をテーマにしました。

表現する側も鑑賞する側も何か思考します。例えばこの動きは何をしているんだろうと考える。

その考える行為はきっと、その人が持つクセですよね。でもそれを表現として舞台上に乗せることにどんな意味があるんだろうと思考を深めながら見ていくと、何かわかりやすい表現とは違った可能性に触れられる。

このように想像することが、人を豊かにしてくれる。そんなことを伝えたくてテーマを考えました。

 

―――ワークショップを通じて伝えたかったことは?

 

北尾)

コンテンポラリーダンスを通してさまざまな仕事をしていますが、かつては自分のこういった姿は想像していませんでした。

僕自身はもともとミュージカルからスタートして役者の経験を重ね、コンテンポラリーダンスの世界に飛び込みました。ある種メジャーからマイナーに移ったような感じです。

そこに飛び込んだ理由は、僕がこのダンスに魅力を感じていたことに尽きます。

僕は自分のコンテンポラリーダンスにおける原体験をどのように普及させていこうかと考えながら、今回のようなワークショップを通じて“ダンスの種まき”をしています。

ダンスは型や技術、経歴だけでは捉えきれない可能性、そして一人ひとりの身体にダンスが生まれる可能性があります。

そんなダンスの種は日常の中にあるかもしれない―――そんなことを伝えたいと思いました。

 

 

―――新型コロナウイルスによりワークショップでもさまざまな配慮を行いながらの開催となりました。そういった中でどのようなことを感じましたか?

 

 

茉琳)

こういう言い方をして良いのか迷いますが……オンライン上ではなく実際に対面できるって嬉しいことだなと思いました。

相手の顔を見て、言葉を投げかけたらきちんと返ってくる。今までは当たり前だった普通のやりとりができることに喜びを感じます。

新しい生活様式に合わせてオンライン上でダンスを披露したりすることもありますが、これまでのやり方とは異なる方向に向いているのを肌で感じるようになりました。

そういった中であらためてダンスや舞台が好きだと再確認することができました。

 

北尾)

僕自身は切り替えが早いほうなので引きずっていません。オンライン化が進んだことで、これまで着手できなかった表現に触れるきっかけになったと思います。

あとは純粋に、対面っていいなと僕も実感しました。対面しにくくなったぶん、その価値はより深まる面があるはずで、長い目で見れば今は変革の時期だと感じています。

 

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北尾さん、茉琳さんともにやわらかな口調で、ダンスに対する熱い想いを丁寧に話してくださいました。

お二人においても自粛期間を経て、久しぶりのワークショップを心から楽しめた時間だったと話す姿がとても印象的でした。

 

 

北尾さんはサントミューゼのレジデントアーティストとして、2021年1月31日(日)に以下公演が予定されています。

大学在学中に発表した作品をリクリエイションする本作。どうぞお楽しみに!

 

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1/31(日)14:00開演(13:30開場)

サントミューゼ 大スタジオ

Baobab Re:born project vol.2『アンバランス』