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【レポート】上田市立美術館「シンビズム4 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち」展

みる・きく
会場
サントミューゼ

2021年2月13日(土)~3月14日(日)開催の展覧会「シンビズム4 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち」は、

長野県内26団体(美術館や地方公共団体など)、32名の学芸員によって構成されるワーキンググループによって選ばれた

長野県ゆかりの現代作家を取り上げる展覧会です。

 

4回目となる今回は、長野県の戦後の現代美術史を辿る上で重要な作家に焦点を当て、小山利枝子、辰野登恵子、戸谷成雄、

母袋俊也が選ばれました。展覧会の様子を担当学芸員がご紹介します。

 

 

■小山利枝子(こやま りえこ)

最大およそ150号の絵画がホワイエに並び、観覧者が絵画に包まれるような空間を造りました。現在のような絵画ではなく、

インスタレーション作品を発表していた頃の作品(《First Water the third》1982年)を再制作して展示したほか、今回の展示に

合わせて描きおろした作品《First star》など、作家の変遷を辿ることもできる充実した内容となりました。

 

中2階のスペースには、《First star》制作のためのドローイング24点が展示され、作家の制作の裏側も垣間見ることができました。

 

 

 

 

■辰野登恵子(たつの とえこ)

今回の展示では、高い評価を得たグリット線を用いた版画作品から、生前はあまり発表されることがなかったドローイング、

その後の晩年まで制作された油彩画まで展示され、辰野登恵子の作品を俯瞰的に観ることができる展示内容となりました。

具象とも抽象とも断言できない辰野作品は、色や形のバランスが心地よく、観る人に自由な解釈を楽しむことを促しているようです。

 

 

 

 

■戸谷成雄(とや しげお)

企画展示室に、メインの作品として、作家の代表作である《森》シリーズに近いコンセプトを持つ《双影景》(ミニマルバロックⅣ)を展示。今回初めての試みとして、《双影景》のドローイングも同時に展示しました。戸谷成雄の作品は集成材をチェーンソーで造形していますが、実は緻密な構想を基に制作されていることが分かります。規則的に配置される《双影景》は、今回の展示空間に合わせて再構成され、圧倒的な存在感を放ちました。

 

美術館の中2階に《双影泉》、プロムナードに《洞穴体》といった作品を展示し、上から観る、覗き込む、回り込む等、様々な視点で楽しむことができる彫刻として効果的な展示となりました。

 

 

 

 

■母袋俊也(もたい としや)

母袋俊也は『絵画は正しくなければならない』という思想のもと、絵画のフォーマート(縦横比)に関係する問題をメインに扱っている作家です。芝生広場やプロムナードに《ヤコブの梯子》と呼ばれる母袋の絵画理論を体感する装置として機能する作品が設置され、メインの企画展示室に向かってストーリーが展開される展示構成としました。

 

企画展示室内には、絵画作品をメインにドローイングや概念図を交えて展示し、作家の思想や作品の成り立ちも読み取れる内容となり、インスタレーションとしても楽しめる空間となりました。

 

 

 

会期中は学生の団体や10代20代のお客様も多く、2018年から連続して開催されてきた「シンビズム」が徐々に浸透してきたことや、幅広い年齢層からの現代美術の需要を感じることができました。また今回のように第一線で活躍する様々なタイプの作家に接し、直接展示を行うことは、私たち学芸員にとっても大変貴重な機会となりました。

 

「シンビズム4」は上田市立美術館だけでなく、安曇野市豊科近代美術館でも2021年8月14日(土)~9月12日(日)で開催します。こちらでは上田会場とは別の作家、7名(北澤一伯、小林紀晴、小松良和、根岸芳郎、松澤宥、丸田恭子、藤森照信)を紹介しますので、是非足をお運びください。

 

 

Text=清水雄