【レポート】田畑真希コンテンポラリーダンス公演~『ハコニワ』
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田畑真希コンテンポラリーダンス市民参加公演『ハコニワ』
2019年7月15日(月・祝)15:00開演
サントミューゼ大スタジオ
今回、振付家・ダンサーの田畑真希さんと、同じくダンサーの中村理(まさし)さん、そして10名の一般参加者が1週間のダンスクリエーションを経て、本番の舞台に立ちました。
本番の約1時間前、田畑さんと中村さん、参加者が集まりました。
「質のいい緊張感で、質のいい楽しみ方をしましょう」と田畑さんが声をかけます。
スタッフも一緒に互いに背中に手を当てて円陣を組み、背中を「ドン!」と叩いて気合を入れました。
大スタジオに設えられた舞台には、3ヵ所に箱馬(舞台で使われる木箱)が置かれ、スポットライトが当たっています。
客席は満席で、さらに席が追加されるほど大盛況でした。
開演すると、まず中村さんが進み出てきます。
暗転してバロック音楽が流れ出し、再びライトに照らされた舞台には、10名のダンサーが立っています。
上半身を中心にゆったりと大きく体を動かす様からは、自分の体を限界まで自由に使うコンテンポラリーダンスの魅力がよく伝わってきます。
中村さんのソロと、同時に繰り広げられる10名のダンスは、動きはそれぞれですが見事に調和して強力な“場”を作っています。
箱馬を持って歩いてある形を作っていったり、舞台をめいっぱい使って10名が一見ランダムに、しかし何らかの規則性を感じさせる動きで歩き回ったり、動的なダンスが続きます。
10名の女性の、それぞれに違う身体、そして背景を感じさせる“個性”がくっきりと立ち上ってきます。
2人の女性が箱馬に座り、相対します。
ひとりが動くともうひとりも動くというように、座ったままダンスが展開されていきます。
3名が舞台に残り、オーケストラの厚みのある音で哀愁に満ちたワルツが流れます。
青い照明の中、3名の体がまるでキングギドラのようにうねり、絡まったりほどけたりを繰り返します。
3名の踊りが終わると、いよいよ田畑さんのソロです。
隅々まで意思を感じさせる体が青い光に照らされます。次にどんな動きが発せられるかまったく予想がつかない、緊張としなやかにほどける動きという緩急の連続に、一時も目が離せなくなります。
アップテンポな音楽に合わせて、照明が点滅しはじめました。
10名が箱馬の上でビートに乗って激しく踊りながら場所を次々に入れ替わり、まるでイス取りゲームのよう。
5名が舞台後方に横一直線に並びます。
シャンソンが流れ、クリエーションで何度も練習したユニゾンから二手に分かれ、さらにカノンへと移行していく難しい動きがスタートします。
5日前のクリエーションでは順番を覚えるだけで精一杯だったのが、それぞれが動きを自分のものにしている様に目を見張りました。
場面が転換し、中村さんと今回最高齢で参加された女性のふたりが舞台に立ちます。
空気にまるで形があるようにゆっくり腕を動かす女性のまわりで、中村さんが踊ります。
ふたりの体が触れることはありませんが、まるで見えない糸が存在するかのようです。
続いては、田畑さんと中村さんがふたりで踊ります。
ふたりは背中合わせになり、お互いの首を肩にもたせかけたところを支点にして、仰向けのまま腰を落としていきます。
頭を頂点にお互いが支え合うようなポーズを保ったまま、腕を真上に振りあげて踊りは続きます。
舞台奥の壁から光が差してきました。
田畑さんが壁を左右に開くと、大きな窓を通して中庭の景色があらわれます。女性がソロでゆっくりと踊ります。
舞台上の照明がすべて消え、女性が外光に浮かぶシルエットとなって窓に向かって歩んでいくところで終幕となりました。
12名がステージに走り出て、全員でカーテンコールを受けます。
やり通した充実感に満ちた表情で、お客様の大きな拍手を浴びていました。
「オープンで明るく、何にでも適応してくれるいいメンバーが集まってくれました。ダンサーにはない一般の方の動きや体は、普段のカンパニー活動では出会えません。そんな方々と一緒にダンスを作り上げられるのは面白く、幸せな時間でした」
と田畑さん。
初参加の70代女性は、
「未経験者OKとあったので参加しました。自分がどういう風に反応して体が動くのかは、自分でもわかりません。それが面白かったです」
と、未経験でもダンスの面白さを知ることができたことを教えてくれました。
公演を観たお客様の感想です。
田畑さんの小学校アウトリーチに参加したお子さんのお母様は、コンテンポラリーダンスは初めて。
「踊っている方の人となりや人生にも思いを致したくなるダンスでした。非日常な場で心が解放されるのを感じました」と話してくれました。
決まったストーリーもセリフもない自由なダンス。それぞれにユニークな個性を持つ10名の市民とともに創り上げた時間と空間には、観客それぞれの胸に秘めた物語や景色を呼び起こす力がたしかにありました。