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【レポート】田畑真希~コンテンポラリーダンスアウトリーチ

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7月15日(月・祝)の市民参加公演を前に上田入りした振付家・ダンサーの田畑真希さん。

市内の小学校で子どもたちに向けて、コンテンポラリーダンスのアウトリーチワークショップを行いました。

その様子をレポートします。

 

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2019年7月8日(月) at 上田市立塩田西小学校

 

昨年も上田でワークショップを手掛けた田畑真希さんは、ダンスユニット「タバマ企画」を主宰する振付家・ダンサーです。

クラシックバレエをはじめ、さまざまな身体表現を学び、現在はダンサーとしてはもちろん、振付家としても全国で活躍しています。

今回は、ダンサーの中村理(まさし)さんとともに、小学校でアウトリーチを行いました。

 

別所温泉の近くに位置する塩田西小学校の体育館を会場に、まずは3年1組、その後3年2組の児童が参加しました。

 

1クラス約30名の児童たちと、大きな声で挨拶を交わします。

「よろしくお願いします!」とおじぎをして……田畑さんは顔を上げようとしません。

田畑さんはそのまま頭を床に近づけ、脚を抱きかかえるように前屈のポーズで体を折りたたんでしまいました。

 

おもむろに即興のダンスがはじまります。

音楽が流れ、座っている子どもたちの中にステップを踏みながら入っていき、中村さんも続きます。

 

 

 

時にダイナミックに、時にユーモラスに、緩急をつけながら流れるように動き回るふたりを、子どもたちは笑い声や歓声を上げながら、好奇心に輝く目で追いかけます。

場の空気はみるみる和んでいきました。

 

ダンスを終え、田畑さんと中村さんがそれぞれの愛称と決めポーズで自己紹介しました。

子どもたちもふたりのポーズを真似して、さらに場が温まったところで突然、田畑さんと中村さんが全力でダッシュ。

子どもたちも即座に反応してふたりについていきます。

全身をめいっぱい使ってさまざまな動きを繰り出す田畑さんを見て、子どもたちはほとんどタイムラグなく真似していきます。

言葉は一切使わず、特に教えることをしなくても、子どもたちの集中力と楽しいことへの感度の高さに驚かされます。

 

 

 

 

田畑さんが「100!」と大きな声をかけると、中村さんがめいっぱい伸びをします。

同じポーズをとった子どもたちに田畑さんが「天井で突き指しないようにね」と声をかけると、子どもたちはますます伸びようと精一杯つま先立ちに。

 

次に「0!」と声をかけると、崩れ落ちる中村さんに合わせて、子どもたちも脱力していきます。

「10!」「20!」と数字が変わっていくと、子どもたちはその場で自分なりの“数値”を体で表現していきます。

子どもたちの独創的な表現に、田畑さんは「いい30だね!」「〇〇さん、いいね!」と声をかけていきます。

 

さらには、「この世でこんな面白い50は見たことがない、という50」「1本足の50」「ふたりで3本足」「3人で5本足」と、徐々に難易度を上げていきます。

 

続いて「スライドホイッスル」と呼ばれる、音程がつながって上下する笛が登場します。

思わず脱力するユーモラスな音に合わせて、「腕だけ」「おしりだけ」「おへそだけ」「背骨だけ」というように、体の一部分だけを動かすように田畑さんが声をかけます。

子どもたちは、難しそうな動きでも、ためらわずに自分なりに動いて音を表現していきます。

 

ここでいったん休憩。

まだ30分しか経っていないことが信じられないほど、濃い密度で体を動かし通しました。

休憩中の子どもたちはジャンケンをはじめるなど、自由な雰囲気で過ごしています。

ダンスが、体だけでなく、子どもたちの心ものびやかに解き放っていることが伺える一コマでした。

 

次は、田畑さんが開いた手を動かすと、中村さんが顔面から田畑さんの動きについていきます。

田畑さんの手が中村さんを操っているようにも見えます。

子どもたちは「ハイ!」と手を挙げて、ふたりが何をやっているのかを当てようと一生懸命です。

 

 

田畑さんは

「顔と手の角度も距離も変わっていないね」「そう、しゃべらないのがルール」「手にパワーをこめて、キラキラピカーンと光が出ているイメージで」

と、動きのポイントを伝えていきます。

 

 

慣れてきたところで、田畑さんはさらに動きを進化させていきます。

動き続けながら途中で手と顔を入れ替えていくのです。

もちろん、言葉は交わしません。

言葉を使わずに、どうやって相手と意思疎通するのか?

子どもたちは、田畑さんと中村さんの動きをよく見ながら、そのポイントを探ります。

 

ポイントは手にありました。パッと開いた手を、花が閉じるように軽くすぼめます。

「手から出ている光を少し暗くするような感じ」と田畑さんがイメージを伝えたら、子どもたちなりに動きを試していきます。

 

次は、これまでの動きを体の他のパーツでやってみることにします。

ひじ、親指、おしり、足の裏、小指、髪の毛と変わっていくごとに、面白い動きがどんどん出てきます。

無理な体勢になって崩れたペアも、それはそれで楽しそうです。

 

 

 

 

最後は子どもたちを2つのチームに分け、今までやった動きの成果を、音楽に合わせて披露しました。

 

途中休憩をはさみながらも、90分間めいっぱい体を動かし続けた子どもたち。

田畑さんから感想を聞かれて、「楽しかった!」と満足気に答え、笑顔で体育館をあとにしました。

 

 

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2019年7月10日(水) at 上田市立丸子中央小学校

 

この日は、丸子中央小学校の4年生2クラス、それぞれに向けてアウトリーチを行います。

 

挨拶の直後に突然はじまる田畑さんのダンスに、子どもたちは驚き、「面白くてたまらない」と言わんばかりの笑い声を立てます。

 

田畑さんが走り出し、いよいよ本格的に体を動かしていきます。

 

 

 

さまざまな動きを一緒にやった後は、四つ這いになって、周りの人とタッチしていきます。

最初は手と手、次に足の裏と足の裏、そしておしりどうし、頭どうし、というようにタッチする場所を変えます。

 

田畑さんが音楽を鳴らしたり止めたりするなか、走る中村さんに子どもたちがついていきます。

「1本足ストップ!」「うしろ歩き」「3本足」と田畑さんが声をかけていきます。

ふたり、3人と組む人数が増えると難しくなりますが、子どもたちはひらめいたポーズをどんどん繰り出していきます。

 

 

 

次は、「100-0ゲーム」です。

「マーシー(中村さん)はこのゲームの選手権で今のところ一番だから、みんなも負けないようにね」と田畑さんが発破をかけて、0から100の間のいろんな数字を言っていきます。

今日は、「右わき25」「あご30」というように、体のパーツごとに数字が指定されていました。

 

田畑さんがスライドホイッスルで音を出しながら、手からはじまって、体のいろんな部分で自分の名前を書いてみるように促します。

動かすのが難しい背中の時は「背中で折り紙の鶴を折れるくらい動かしてみて」と、助け舟を出します。

 

さらに、「水の中で動いているみたいに」「マイナス100℃」「ハワイ」「体がちぎれるように」と、イメージを体で表現していきます。

子どもたちの動きは個々で違っても、見る側にも何となくイメージが伝わってくるのは興味深いところです。

 

続いてペアでやるゲーム「氷ダンス」に移ります。

ひとりがカチコチの氷のように固まっています。もうひとりが、その氷にそっと触れます。今度は、触れた人の体が固まります。触られたほうは、溶けるようにするりと抜けて離れる……という動きを繰り返すゲームです。

 

田畑さんと中村さんがどうやるかを見せていると、子どもたちも前に出て交替で参加していきます。

子どもたちの凍り具合は真に迫っていて、田畑さんも「いい氷ができてる!」と絶賛。

「氷を壊してしまったら負けだよ」とルールを伝えてゲームをはじめます。

 

思い思いに動くことに慣れてきたのか、座禅を組んだり、髪を一本だけ掴んでポーズをとったりなど、ユニークなポーズがあちこちで展開されていきます。

 

 

休憩をはさんで、別のゲーム「くっつきダンス」に移ります。

指と指など、体の1か所を離さないようにして、ふたりでダンスをするゲームです。

 

次に、くっつけるパーツを動きながら変えていくように提案します。

動きながらなので、目で合図することはできません。体でおしゃべりするつもりで、相手の体の声をお互いに聞き合う必要が出てきます。

子どもたちは、じっくり確かめるようにゆっくり動いていました。

 

 

そして、このくっつきダンスと先ほどの氷ダンスを合体させた動きをやってみます。

次は氷ダンスなのか、くっつきダンスなのかをお互い探りながら動き続けます。

さすがに難しいと感じたのか、ずっと氷ダンスをやっているペア、探りながらぎこちなく動くペアもいます。

 

「動きを変えたい時が難しい」という声があがり、田畑さんは「触り方を変えてみよう」と提案します。

氷の時は手を止めて触り、くっつきの時は相手の体を少し動かすように触ることで、ほんの少しの差ですが、相手に伝わりやすくなることを子どもたちは実感していました。

 

最後は2チームに分かれて、それぞれやってきた成果を見せ合います。

なかに、凍ったままの児童がいます。

キョロキョロすることも、やめることもなく、最終的に他の子が近づいて氷ダンスやくっつきダンスをはじめました。

動きがないことも表現になりうることに気づかされる、個性的な表現でした。

 

 

 

体で会話する面白さをシェアして、ワークショップは終わりました。

 

今回、上田市内の小学校5校11クラスでコンテンポラリーダンスのワークショップを行った田畑さんと中村さん。

子どもたちに、体と動きでコミュニケーションを取り、表現していくという貴重な体験を提供してくれました。