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【レポート】制作実演講座「デジタルとアナログによるリトグラフ作品制作」

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サントミューゼ

2021年10月31日(日)多目的ルーム

・第一部 「絵作りについて」 デジタルによる制作実演(13:30~14:20)

・第二部 「描画、製版、刷りについて」アナログ(手作業)によるリトグラフ制作実演(14:30~15:20)

 

第8回山本鼎版画大賞展の関連企画として、今回大賞を受賞した芦川瑞季さんが、自身の作品制作を実演、解説する講座を開催しました。

会場には、芦川さんの今回の受賞作以外の作品を特別に展示しました。

 

 

 

芦川さんは、最初の‟絵づくり“の工程でデジタル(パソコンソフト)を使用し、その後リトグラフ版画へと展開するために、アナログ(手作業)でアルミ版に描写して、製版を行います。

今回は、そのデジタルとアナログ両方の過程を解説しながら、実際に作品を刷って完成させるところまでを実演しました。

 

 

 

【第一部】

まずは、芦川さん自身の過去作品の紹介を行い、それからリトグラフ版画とはどのようなものか、影響を受けた作家についても交えながら語りました。オデュロン・ルドンやデイヴィット・ホックニー、織田一磨などの名前が挙がり、確かに芦川さんの作品に通じるものを窺わせます。

 

 

続いて、大賞受賞作《親和力》で使用した写真や、最初の下書き、付け加えたモチーフなどについて解説。最終的に作品になってしまうと一見わからない、モチーフの元ネタなども公開されました。

 

そしてここから、芦川さんのパソコン画面を共有し、今回の講座で使用する小作品の作業を行いました。芦川さんが使用しているのは、画像編集ソフト「Photoshop」。操作は通常のペンタブレットで行います。

 

 

 

「Photoshop」ではレイヤーと呼ばれる機能があり、何枚もの画像や描画を重ねたり、消したりできます。芦川さんは、このレイヤーを何層にも重ね、複雑な画面を構成しているそうです。

 

様々な太さのペンツールや消しゴムツールを使って、フリーハンドでパーツも描き、それらもレイヤーに落とし込んでいきます。線描のレイヤー、影のレイヤー、イメージしているメモのレイヤーなどもありました。

 

また、作品に使用する写真は、ご自身で撮影したものを使用しているそうです。

 

 

こちらはタイに旅行した際に撮影した、鳥除けの格子。この格子の部分だけを切り取って使用します。この作業にも時間と労力を要します。

何層もレイヤーを重ねていき、一旦は画面上で下絵を完成させます。ただ、後々製版していく時に手を加えられるよう、この段階では‟余白”を残しておくそうです。

 

 

次にPhotoshopで制作した下絵を印刷して、ベンガラを塗った紙を使用してアルミ版に手書きで転写します。そこにダーマトグラフやクレヨンなどで更に描写をしていきます。

 

実際にはこれですぐ完成とはいかず、再度Photoshopで下絵に手を加えたり、デジタルとアナログを行ったり来たりしながら版を完成させていくそうです。

 

第一部の「絵づくりについて」はここまで。一旦休憩し、第二部に続きます。

 

【第二部】

下絵からの転写や製版にはかなりの時間がかかるため、今回は予め製版してきた版を使用し、実際に刷って作品を完成させます。

こちらは芦川さんが使用している皮製のローラー。ゴム製のローラーに比べてリトグラフの版へのインクのつきが良いそうです。

 

 

丁寧にインクをのせていく芦川さん。必要ない部分のインクは取り除きながら、何度もインクをのせていきます。刷る直前の版には、うっすら厚みが分かるまでインクがのっていました。

 

 

美術館のプレス機はリトグラフ用ではないものの、リトグラフを刷ることも可能。芦川さんの微調整を、固唾をのんで見守ります。

 

作品が刷りあがると、芦川さんから笑顔がこぼれ、参加者からは自然と拍手が起こりました。

 

今回の実演では、全部で3枚の刷りを行いました。見比べてみると、1枚目よりも2、3枚目の方が濃くはっきりと刷れていることがわかります。複数刷ると、少しずつ版へインクがなじんでくるそうです。

 

 

今回の講座はここまで。

参加者の皆さんからは沢山の質問があり、メモを取るなど勉強熱心な方が多かったのが印象的でした。

 

 

時間いっぱいまで、ご自身の制作について丁寧に解説していた芦川さん。今回の大賞受賞を機に、更なる活躍が期待されます。