【レポート】津野田圭~アナリーゼワークショップ vol.25
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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップVol.25 津野田圭ハープリサイタル関連プログラム
お話:津野田圭
8月31日(金) 19:00~ at サントミューゼ大スタジオ
25回目となるサントミューゼのアナリーゼで初となる、ハープにスポットを当てた企画。
9月15日にリサイタルを行うハープ奏者の津野田圭さんが、「当日の演奏をより深く楽しんでいただくために」と、楽器の構造や歴史について解説しました。
客席の目の前に置かれた大きなハープは装飾も華やか。
至近距離で見られる機会はめったにない楽器ですから、客席の皆さんも興味津々です。
「ハープというと『天使が弾く小さな楽器?』と言われることが多いですが、現在のオーケストラで演奏されるのはこのグランドハープ。その名の通りとても大きく、サイズは身長180センチ以上、奥行き100センチ。重さは40キロあります」
と津野田さん。弦は全部で47本あり、非常にデリケートなので常に47本分の予備の弦を持ち歩いているのだそう。
同じ弦を使う楽器でも、例えばヴァイオリンは弓を弦にこすって音を出し、琴は爪をつけて弦を弾きます。
一方ハープは、演奏者が指で直接弦を弾くのが特徴。
「他のものを介さないから指先の微妙なニュアンスが音楽に伝わりやすく、とても繊細な音がします」
と弾いてくれた音は、とても澄んだ響き。
弾いた後も弦の振動を止めない限り響き続けるので、曲に合わせて「休符を作る」のはハープ奏者の重要な仕事です。
実際に、同じメロディーで響きを止めながらスタッカートで弾く場合と止めない場合を比較しながら聴かせてくれました。
「ハーモニーが移る時は、前の響きを消しながら弾いています」
優雅に見えるハープですが、「足もとは格闘しています」と津野田さん。
理由はペダル操作があるから。ハープは足もとに7本のペダルがあり、それぞれ「ドレミファソラシ」に対応しています。
踏むことで調性を変えることができ、さらに各ペダルは踏むごとに「♭、ナチュラル、♯」と変わる仕組み。
奏者は手だけでなく足も動かしながら美しい音色を奏でているのです。
津野田さんは写真や図を見せながら、分かりやすく説明してくれました。
ハープの歴史は古く、紀元前から原型となる楽器はあったと言われています。
楽器が大きく変化したのは1770年頃。マリー・アントワネットが「ハープブーム」を巻き起こし、フランスの宮廷でハープ演奏が盛んに行われるようになったことで多くの曲が生まれ、楽器も現代の形に近づいていきました。
ここで有名なハープの曲として、リサイタルのプログラムにも入っているアッセルマン作曲「泉 op.44」と、フォーレ作曲「即興曲」を紹介。
「この2曲は似ているところが多いんです」と、スクリーンに楽譜を映して解説してくれました。
さらに演奏も少しだけ披露。
流れるような優雅な音色が響きます。
2曲に共通して使われているのが「グリッサンド奏法」です。その部分の譜面をみると、いくつもの音符が連なっていてとても難しそう。
「ピアノで弾くのはとても難しいのですが、ハープだと簡単です」と弦の上に指を滑らせ、一気に音のグラデーションを奏でた津野田さん。
客席から感嘆の声が起きます。
「ハープにしか出せない、魔法のような音です」。
この日は「泉 op.44」を演奏してくれました。優美な中に驚くほど豊かな表情、緩急あるリズム。
自身もハープの名手だったというアッセルマンならではの、ハープの美しさを堪能できる曲です。
もう一曲、「おもしろい奏法がたくさん組み込まれた曲です」と演奏したのはサルツェード作曲「夜の歌」。
幻想的なメロディーの中に、弦を指で弾いたり手のひらでこすったり、弦の下の部分を弾いて音を曇らせたり、さらに本体の共鳴板を手で叩いたりと、個性的な奏法で魅了しました。
最後の質問コーナーでは、参加者から「指にタコができたりしないのですか?」との問いかけが。
津野田さんは「工夫すると指先も強くなります。指が硬くなると音も硬くなってしまうので、ガラスのヤスリを持ち歩いて手入れをしたり、入浴後にクリームを塗ってラップを巻いて寝たりしています」
と日ごろのメンテナンスを教えてくれました。
「楽器は分解して運ぶの?」とよく聞かれるそうですが、この大きさのまま専門業者が運びます。
オーケストラで弾く場合は各楽団所有のハープを使うため、初めて弾く時はリハーサルより1時間早めに行って弦の幅や張り具合などをチェックし、「楽器と仲良くなるようにしています」と話してくれました。
なかなか単独で聴くことのないハープの世界をのぞかせてくれた津野田さんのアナリーゼ。
ハープの魅力を堪能できるリサイタルは9月15日(土)に小ホールで行われます。お楽しみに。