高橋多佳子アーティスト・イン・レジデンスin中央・西部地域
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- サントミューゼ
7月16日(土)に小ホールで開催されるリサイタルに先駆け、ピアニストの高橋多佳子さんがさまざまな活動を行いました。
Day1
5月26日(木)アクティビティat 長野医療専門学校音楽療法士科
上田駅お城口からまっすぐ伸びる松尾町通りを歩くこと約5分の場所に立つ
長野医療専門学校音楽療法士科は、北陸信越地方で唯一日本音楽療法学会の認定を受けた養成校です。
ここでは「音楽が好き」「人の役に立つ仕事に就きたい」などの夢を叶えるために、
生徒たちは日々さまざまな勉強をしています。
この日は1~3年生合計16人が参加し、1時間ほどのライブとトークタイムを開きました。
はじめにバッハやヘンデルと同じ、1685年に生まれたイタリアの作曲家・スカルラッティの「ソナタ」を披露。
音楽療法士科ではピアノが必須授業で組み込まれ、学生の多くが経験者または現役です。
しかし同時代の作曲家であるバッハやヘンデルと比較すると、
スカルラッティという作曲家の知名度は高くありません。
学生の中にも知らない人がちらほら。
高橋さんは上田市に縁のある真田信繁(幸村)の生まれた年と比較するなど、
生徒たちが想像しやすいように話していました。
「次は、音楽療法の世界でも良いといわれるモーツァルトの曲を演奏します。本当は『トルコ行進曲』を考えていたのですが、皆さんの学科に合うような曲に急きょ変えてみました」
どうやら学校の本棚にあった書籍タイトルを見て、急きょ思い立ったようです。
リラックスした時間が生まれたら……という言葉とともに「ピアノソナタ第12番ヘ長調第2楽章」を演奏。
続いてベートーベン「ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調『月光』第3楽章」へ。
午前中の明るく、爽やかな日差しを遮るかのごとく、力強い旋律を響かせました。
続いて、高橋さんが留学していたポーランド出身のショパンへ。
ここでは社会主義国だった当時の様子を振り返りました。
当時は物資が少なく、配給券をもらいながら限られた中で生活をしていました。
トイレットペーパーを買うにも3時間待ちだったり、そもそもスーパーに商品が置いてなく、街に色が無いようだと感じたそう。
しかしそこから自由を得て、今ではとても美しい街並みになり、色を感じるようになったと言います。
外国で10年近く留学生活を送りながら、
ショパンがいかに自国で愛され、また素晴らしい音楽を創り出してきたのかを感じるように。
「音楽が好きで、続けるなら、皆さんもいつかヨーロッパに行ってほしい」
学生たちにメッセージを送ってから、「バラード1番」を演奏。
最後の演奏の前には、学生たちにピアノの周りに集まってもらい、
あらためてピアノがどんな楽器なのかを説明。
音の出る仕組みを教える中で響板の役割を理解してもらうために、学生たちに合唱してもらってその響きを体感してもらうなど、ピアノという楽器について解説しました。
そして、みんなが集まっている状況のまま、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」へ。
オーケストラが無くとも華やかさを感じるメロディーに、学生たちは最後の1音まで集中している様子が感じられました。
学生たちからは、「強弱を上手に付けられるようにするには」「本番で緊張しないためには」など、たくさんの質問が上げられました。
高橋さん自身も本番ではいつも緊張すると話し、
「本番で脱力できるようになるのは、85歳くらいかな~。そのころ弾いているかな?」
という言葉に、教室にいた人たちの多くがふき出す事態に。
演奏する時の真剣な姿とは対照的な人柄に触れた授業となりました。
Day2
5月28日(土)ワンコイン 地域ふれあいコンサートvol.19
「『ピアノの詩人ショパン』~お話と演奏で辿るショパンの生涯」をテーマにミニコンサートを開催。
「どなたもいらしてなかったらどうしようと不安でした」と話していた高橋さんでしたが、この日も多くのお客様が来場しました。
現在のポーランドであるワルシャワ公国の小さな村に生まれたショパンの激動の人生を、時代ごとの曲の演奏とともに紹介しました。
当初の予定では「ポロネーズ第9番変ロ長調作品71-2」から演奏する予定でしたが、
「数日間の上田市滞在の中で感じた上田市の新緑のイメージに近い曲を追加しました」と『子犬のワルツ』から演奏。
2曲目からは作曲した年代順に7曲を演奏。
ポロネーズ第9番変ロ長調作品71-2
ノクターン第2番変ホ長調作品9-2
練習曲より第12番ハ短調作品10-12
バラード第1番ト短調作品23
24の前奏曲より第15番変ニ長調作品28「雨だれ」
ポロネーズ第6番変イ長調作品53「英雄」
マズルカへ短調作品68-4(遺作)
その合間には、ショパンが生まれた時代背景や、曲がどのような状況下で生まれたものかをわかりやすく解説。
自国が3カ国によって分割支配されていた激動の時代の中で、彼は「音楽家として自国を世に知らしめたい」と世界に飛び出し、その言葉を体現。
よって今もなおショパンはポーランド人から愛される作曲家として知られていることを、高橋さんの考察をふまえながら話しました。
そこからは演奏するだけではなく、作曲家の人となりを垣間みれるコンサートでした。
Day3
6月17日(金)アナリーゼ(楽曲分析)ワークショップ
サントミューゼ大スタジオでは、高橋さん自身が解説するアナリーゼワークショップを開きました。
今回、アナリーゼを行ったのは、
スカルラッティ:ソナタ ヘ長調 K.17/L.384
モーツァルト:ソナタ ヘ長調 KV.332
ショパン:ノクターン 第1番 変ロ短調 作品9-1
ショパン:即興曲 第1番 変イ長調 作品29
ショパン:バラード 第3番 変イ長調 作品47
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ガーシュイン:ラプソディ・イン・ブルー
の全8曲。
7月16日のリサイタルで演奏するプログラムから、各作曲家の特徴や時代背景を説明し、加えて、長調の♯・♭の違いやソナタの構成といった音楽の仕組みなども学びながらのアナリーゼは、高橋さんが各楽曲を演奏しながら、その都度、聴きどころやポイントも解説していきました。
さらに、楽曲ごとにまつわる自身のエピソードも盛り込みつつ、途中からは客席との掛け合いをしながら進行していきました。
モーツァルトのソナタは、小学校4年で初めて弾いた曲とのこと。
現代のポップスにも通じるような斬新な和声から「いい曲だ」と感動したそう。
また、モーツァルトの曲は単音で進む曲が多いため、指が細い高橋さんは安定感が少なく演奏会では不安を感じてていたこともありましたが、ここ数年は演奏を楽しめるようになったというエピソードも披露しました。
「ピアノの詩人」と称されたショパンの和声も素晴らしいと評価し、「変イ長調の曲は特に和声の天才感がアップして、魅力を語りだしたらキリがない」と高橋さん。
さらに「ショパンは即興曲の天才でもあり、私が大好きな第1番はさわやかな5月の風のようで、弾いていてもハッとするところだらけ」と演奏する側から感じたショパンの曲の魅力を語りました。
このほかにも、高橋さんが考えるラヴェルと宮沢賢治との共通性や、『ラ・ヴァルス(=ワルツの意味)』の冒頭部分が「飛行機に乗っているようなイメージ」などの話をして、『ラ・ヴァルス』のオーケストラVer.の音源を聴いて終了。
講師独自の視点も交えながらのアナリーゼとなりました。