サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】田中靖人・白石光隆 地域ふれあいコンサート

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サントミューゼ

ワンコイン 地域ふれあいコンサートvol.17 in 塩田地域

2016年2月21日(日)塩田公民館

 

上田市内を9地区に分け、プロのアーティストが各地の公民館やホールまで出向き、ワンコイン(500円)で生の楽器の音を鑑賞できる小さなコンサート「ワンコイン 地域ふれあいコンサート」。

この日の午前中に上田に到着したという田中靖人さんと白石光隆さんは、14時の開演にあたり、昼すぎには会場に入って入念にリハーサルを行いました。

白石さんが特にこだわったのは、ピアノの音の響き。用意されていたのはグランドピアノではなくアップライトピアノだったため、屋根や下前板を外すことで、より豊かな音色を表現する工夫をしていました。

 

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会場には、日曜の昼どきということもあり、幅広い年齢の老若男女138名が集結。開場前から長い行列ができ、おふたりの人気を物語っていました。

 

開演とともに登場したおふたりは、まず、イタリアのヴァイオリニスト、V.モンティの『チャルダッシュ』を演奏。13日(日)のコンサートでも演奏予定のプログラムです。息の合った演奏に、観客は一気に田中さん&白石さんワールドに引き込まれていきました。

とりわけ吹奏楽ファンの憧れである「東京佼成ウインドオーケストラ」のコンサートマスターを務める田中さんには若いファンが多いようで、田中さんの一挙手一投足に仲間同士で盛り上がっているようでした。

 

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そんなおふたりは、昨年11月から数回、上田市内の学校や公民館などでアウトリーチコンサートを展開してきたことから「今日は『ただいま』という気持ちで上田にやって来ました」と自己紹介。楽曲に関しては「これはヴァイオリンのための楽曲で、ハンガリーの民族曲です」と丁寧に説明し、観客はプログラムの理解を深めていきました。

 

続いて演奏したのは、フランスの作曲家・G.ビゼーが劇のために書いたという楽曲『アルルの女』の組曲より間奏曲。その前に「ビゼーというと、この曲が有名です」と田中さんが紹介して白石さんが演奏したのは『カルメン組曲』。観客からは「この曲なら知ってる!」という雰囲気が流れます。

 

演奏後は、田中さんが自在に操るサクソフォーン(サックス)の説明へ。

「この楽器は160年ほど前にベルギーのサックスさんという人が発明したものです。それでサクソフォーン、サックスと言います。もし僕が発明していたらTANAKAという楽器だったかもしれませんね」と田中さん。会場からは笑いがこぼれます。

 

続くプログラムは、D.ミヨーの『スカラムーシュ』。3つの楽章からなる作品で、「第1楽章は明るく元気で早い曲調、第2楽章は今日のようなお昼時にはちょうど眠くなるようなゆっくりの曲、第3楽章はラテンのようなサンバのリズムです」と田中さんから紹介されました。なかでも第1楽章の田中さんの速い指の動きには目を見張るものがありました。

 

ここからは、白石さんのピアノソロを2曲。まずはF.ショパンの『夜想曲第18_番ホ長調 op.62-2』。これはショパンが書いた最後の夜想曲で「ペダルの効果を最大限に引き出した曲なので、その分厚い響きも感じてください」と白石さん。重厚な音がホールに響き渡ります。

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次に演奏したE.サティの『ピカディリー』はリズミカルで短い演奏の曲で、白石さんからは「すぐに演奏が終わるのでまばたきしていて見逃さないように」と説明が。ウィットに富んだトークでも観客を魅了し、演奏では軽やかな指のタッチから生まれるリズムが素晴らしく、心が弾むようでした。

 

そして、再び田中さんが登場してからは、田中さんが大好きで「何度見ても涙する」という映画『ニューシネマパラダイス』の作曲も手がけたイタリアの巨匠・E.モリコーネのメドレー『モリコーネ パラダイス』を演奏。しっとりとしたサックスの音からは、田中さんの同曲への思い入れを感じることができました。

 

プログラムの最後は、ジャズの要素も取り入れたG.ガーシュインの_メドレー『ガーシュイン カクテル』。

「ガーシュインはブロードウェイのミュージカルでもヒット曲をいくつも書いた作曲家で、映画『のだめカンタービレ』にも使われていた『ラプソディー・イン・ブルー』は聞いたことがある人もいるのではないでしょうか」と田中さん。

すると、すかさず優雅なピアノ演奏で白石さんが追いかけます。演奏だけでなく、トークの掛け合いもおふたりの息はぴったりです。

アンコールでは白石さんがアレンジをした『スラップ・ザット・バス』を披露し、会場に響く熱い拍手からは観客の満足度の高さが伺えました。

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ワンコイン 地域ふれあいコンサートvol.18 in 真田地域

2016年2月24日(水)真田中央公民館

 

今回のコンサートの約10日前、2月15日には同会場でサクソフォーンとピアノという楽器の魅力について、演奏を交えて紹介するワークショップを行ったおふたり。また、それと合わせて、真田地域の全4つの小学校と真田中学校に出向いてのアウトリーチも行いました。

 

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そんな縁ある真田中央公民館でのコンサートだけあって、会場には平日ながら100名弱の観客が集まり、小・中学生の姿も目立ったコンサートとなりました。特に中学生は吹奏楽部員と思われる生徒が仲間同士で多く集まっていました。

 

 

 

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プログラムは、3日前の塩田公民館と同じものです。サクソフォーンの楽器の成り立ちの説明では、フランスの軍楽隊のなかで金管楽器と木管楽器の橋渡し役として作られたことや、金属製なのに木管楽器に分類されることなどが田中さんから紹介されました。

そして、「サックスはオーケストラの中に席がなくソロが多いのですが、オーケストラに入って演奏する曲もあります。その代表的な曲のひとつ」として演奏されたのが、2曲目のG.ビゼー『アルルの女』の間奏曲です。丁寧な楽曲解説はとてもわかりやすく、聴き方がいろいろと発見できるおもしろさもあります。

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続いて、「サックスは新しく生まれた楽器で最初はあまり曲がなかったのですが、1900年代になってアメリカのジャズの世界で有名になり、フランスでも作曲家が曲を書くようになってきました」と紹介されたのが、3曲目のD.ミヨーの『スカラムーシュ』。この曲はもともと「空飛ぶお医者さん」という劇の音楽で、後にミヨーがピアノの連弾向けとサックス&ピアノのために書き直したものだそう。

第一楽章はサクソフォーンの長いフレーズがあることから「息がだんだん苦しくなってきて顔が赤くなったりしますが、そういう時は今、長いフレーズを吹いているんだなと思って見てみてください」と田中さん。会場から温かい笑いがこぼれます。

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4曲目からは「ここでサックスは少し休んで、白石さんにバトンタッチ」と田中さんが裏手に引っ込み、白石さんがピアノソロを披露。

「ショパンはバッハとモーツァルトを研究し、晩年になるほどバッハのような幅広い響きになります」との紹介のあとに、F.ショパンの『夜想曲第18番 ホ長調 op62-2』が演奏されました。

また、白石さんは、サックスと同じく約160年ほど前に現在の形になったピアノの話をしつつ、同年代を生きたフランスの作曲家、E.サティの『ピカディリー』を演奏。演奏の素晴らしさとユニークなトーク、そしてコミカルさを感じる動きなど、ソロ2曲だけでも白石さんの魅力が発揮された演奏でした。

 

再び田中さんが登場してのE.モリコーネでは、映画が好きで『土曜映画劇場』を楽しみにしていた幼少時代の田中さんのユニークな話が。これまた会場に笑いがあふれます。

この『モリコーネ パラダイス』と、続くG.ガーシュウィン『ガーシュウィン カクテル』は、吹奏楽作曲家として名高く吹奏楽部員には馴染みが深い真島俊夫氏の編曲であることもあって、吹奏楽部の中学生たちは特に前のめりに聴き入っているようでした。

 

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公民館という近い空間のなかで、目配せや息使いから感じるおふたりの息のあった演奏。その素晴らしさのみならず、明るくてユーモアあふれる人柄も十分に感じることができた演奏会となりました。

 

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