審査結果
審査の結果、157点が入選し、そのうち14作品が入賞となりました。
入賞作品 14点
大賞
張 雨倫(ちょう うりん)
《88512963》
銅版、モノタイプ 60×60×20cm
東京都
準大賞
鈴木 遼弥(すずき りょうや)
《day count : 91》
木版 68×85cm
東京都
僕は時どき、自宅周辺をわけもなく散歩をすることがある。その時、何枚か写真を撮影する。目的のない散歩で撮った、目的もない写真はしばらく経ってから見返してみると「こんな写真撮ったっけ」と忘れていることがある。確かに自分が撮ったはずの写真だが、その場の空気感、時間感覚、何を考えていたかなどが全て曖昧に感じる。写真を撮ったという事実とそれを忘れてしまった意識が混在した状況は僕には特別な何かを感じさせた。
そんな写真を選び、水性木版画でその特別な何かを追求するために記録している。この作品で用いた手法は、版木の裏面を摺る方法で、インクのあるなしではなく、凹凸によるプレスの圧の現象のみが出力される。版画において、実像が自身の中の意識だとすれば、ここで出力されるのは、現象という事実と意識が混在した像になる。
前田 由佳理(まえだ ゆかり)
《What’s wrong with freedom?》
銅版(エッチング、コラグラフ) 66×97cm
熊本県
「なぜ写し取ると図柄が反転するのか?」言葉ではわかっていても、頭の中ではさっぱり分からず、混乱していました。だから版画の世界に踏み出すことはないと思っていました。それなのに、今も版画を作り続けている自分に改めて驚いています。
「版画」との出会いは、絵筆を握っても何も描けず、もがいていた時です。大きな真っ白いキャンバスが威圧感たっぷりに私の前に2年間立ちはだかっていました。そんな時にはがきサイズの銅版画を作りました。肩の力を抜いて描いた小さな作品。あの時の楽しさは忘れることができません。版画の持つ表情や図柄が反転することがとても面白くなり、せっせと作っていたら、版画人生を歩むようになっていました。そして、なんだか作品も大きくなってきました。
大きくなっているといえば、世の中の変化の速さと日常との違和感です。私は日々を見つめています。最近、子犬を飼いました。それで私の家族は2人と犬1匹になりました。この作品は私の家族の記録のようなものです。
サクラクレパス賞
民谷 茜(たみや あかね)
《Night view#3》
シルクスクリーン 68.0×91.0cm
埼玉県
本当に自分の作品がこのような素晴らしい賞をいただいてもよろしいのかと思う反面、大変嬉しいです。初めての受賞なので、創作する喜びをこのようなシーンで感じてしまいます。今回の受賞で自惚れず、これからも一層制作に励みます。
最後になりましたが、このような素晴らしい賞をいただき、審査員の方々、また関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
優秀賞
王 敬昇(おう けいしょう)
《欄干会大壁画-2》
リトグラフ 90×70cm
茨城県
石窟が徐々にぼやけ、昔の信者は石となり、自然と一体化していた。
水池の中央にある彫像はすでに崩れているが、
人々は池でのんびりと入浴し、起こっていることに無関心。
廃墟の中で新しい命がひそかに育っている。
世界は常に変化し、絶えず入れ替わっています。
私はリトグラフの手法を好んで使用している。
「水と油の反発」の原理は制作に大きな楽しみをもたらす。
「油と水」、「黒と白」などのバランスを守り、「版上の世界」を築くことを楽しんでいる。
岸中 延年(きしなか のぶとし)
《神木》
木版 80×60cm
京都府
スナップショットの写真をもとに、写真の陰影・明暗・遠近など画像の詳細を無くして行き、写真の再現ではなく、平面性と刀の彫り跡を見せるようにしています。
仕上がりの作品が、写真の再現から掛け離れ、彫り跡の木版画でありながら、写真と分かる表現になるように制作を進めています。
中村 紗友里(なかむら さゆり)
《ぐるり》
木版 97×66cm
京都府
私はこれまで小説、演劇、版画と媒体を変えながら言葉に係る活動を続け、現在は音声を切り口に文字の形を変化させる平面表現に勤しんでおります。本作も「ぐるりぐるり」の音声を素材に、音の位置をイメージしながら制作しました。
言葉の形を知りたい。中高時代の演劇部で得た壮大な好奇心とささやかな試みに、拍手が送られたことは何よりの喜びであり、励みとなります。重ねて、この度の受賞に心より御礼申し上げます。
日髙 衣紅(ひだか いく)
《黒島傳治著『武装せる市街』(改訂版)二五〇-二五一頁》
シルクスクリーン 25.5cm×32.1cm×53cm
茨城県
森 桜子(もり さくらこ)
《自画像》
銅版 エッチング 94.0×74.0cm
愛知県
立岩和紙賞
池内 通子(いけうち みちこ)
《なぜ生きる -ハシビロコウ-》
ウォータレス・リトグラフ 82×71cm
長野県
私は野生動物が、過酷な環境で懸命に生きる姿に感動したり、励まされたりする一方で、なぜそうまでして純粋に生きれるのかとも考えます。人間の業を追い闇の心に連れ込む、このテーマをもとに嘴広鸛を10年描き続けています。この作品は、トナー描画のみによるウォータレス・リトグラフに挑戦し、己も過酷な状況に追い込みひたすら制作しました。嘴広鸛が問いかける人間への挑戦を感じながら…。
アワガミファクトリー賞
宮澤 佐保(みやざわ さほ)
《家の記憶》
シルクスクリーン 92×110cm
長野県
写された記憶は釉薬で陶板に転写した。釉薬には25年前に亡くなった祖母が生前に作った燻炭を練り込んだ。記憶は溶着し永劫の記憶となった。
作品は私と亡き祖母との共同制作。古家の軒下で朽ちていた鉄板は家の欠片だ。この作品は家の記憶そのものなのだ。
奨励賞
柏木 優希(かしわぎ ゆうき)
《overlap #2》
水性木版 64×64cm
群馬県
鈴木 知子(すずき ともこ)
《ひとり 24.4》
紙版 81.5×55cm
愛知県
私の思考でその定の裏側を切り取ったつもりです。作品を性的に見ることも出来ますが構いません。
人生は一瞬で変わるものです。
マッチ棒でそれを現したつもりです。
だれも描かない表現が理想ですが、
それがどのように評価されるか葛藤もありました。
媚びずに信念を通して描き続けて良かったと思います。
関 萌瑚(せき もえこ)
《窓の外を見る》
リトグラフ 59×80cm
東京都
庭からガサガサと物音が聞こえ不審者が侵入してきたかと思い、恐る恐る覗いてみると、鳩が歩いているだけということが何度かありました。
今回の絵はそういった日常の不安をテーマにしています。
絵を描き加えた写真を色分解し、写真製版をした版を刷って完成した作品は、現実の世界と自分の妄想がフラットに繋ぎ合わされたものになっていると思います。
入選
※受付順
作者名 | 作品名 |
---|---|
森山佳代子 | 還る |
新野 耕司 | 刻む 144ー2 |
門馬 英美 | 郷愁 |
伊藤 榮 | 何に生まれ変わるのか |
寺口 肇 | まだ空を飛べるだろうか |
鈴木 紗綾香 | 雨の終わり |
神田 和也 | Thoughtography23-02 |
梅津 秀行 | cloud |
山田 琢矢 | 堂々巡りの渦 |
戸田 喜守 | 歩く人たち |
尾曽 美和子 | Tangled 2303 |
青栁 有華 | 八橋 |
福島 真菜 | |
増田 雅子 | 生まれるということ |
佐藤 雄飛 | 景象 #12 |
辻󠄀 彩菜 | 生活の層 14 |
徐 儀瑩 | breathe |
片岡 外志子 | 音が消えた |
棚橋 荘七 | 水の器 |
戸谷 文孝 | 方舟の帰還II |
山田 純一 | 静かな雨 |
わたなべ 淑子 | 地中の呼応 涌 |
大浦 美知子 | ロンドOp.1-2 |
芝田 美恵子 | Cabaret chat noir |
飯田 耀子 | 困惑する現代人A |
平野 瞳 | 夕日の味 |
篠田 亜希子 | 旅程幻想 |
川村 景 | いかにも信仰心がありそうで信用ならない、だがある意味、お気楽で繊細かっこ笑い的な心を持った人々! |
松田 圭一郎 | 24-20 Bird |
加藤 照子 | 無言の月 |
坂口 恵二 | 青はモノクロ |
長井 信夫 | notion椅子202401 |
新免 泉 | 誰かそこに居ますか? |
EASTCOTT, Wayne | Synchronicity 22 |
ミシマサオリ | 午睡 |
越山 孝彦 | 密しき葦原 <ENTRANCE> |
野津 正昭 | November |
浦江 妙子 | Kioku 2024-04-10 どこにいくのか? |
柄澤 博章 | 白い朝 |
鈴木 道子 | 癒しの池 |
染矢 義之 | 回 12 |
大石 珠世 | 雑居する |
中村 美津穂 | view |
鈴木 洋子 | 沈黙ー24-5 |
花藤 加奈 | 栗鼠 |
張 諒太 | Dubrovnik-旧市街の階段路地 |
加納 シゲヒロ | The Treasure Inside #L01 |
馬晨尭 | 都市の鳥 |
スズキヤヨイ | ハルノヒ |
雨宮 千鶴 | Niwa-2024-5(b) |
倉羽 博之 | 魚の記憶 Fragments |
堀江 優希 | 変様 |
松井 亜希子 | MIRRORS-Blood vessel |
ワタナベメイ | Sequence_fig3_dw |
澤田 祐一 | 松にふれて2024-2 |
奥田 藍 | The two Am were on the tree. |
斎藤 香織 | Spring Figure |
陳 憶誠 | 連続労働1-8① |
金子 美早紀 | 瑞雲龍の植木 |
絹谷 與師子 | コスモとハエ |
山田 大輝 | Shibuya,26 |
朝井 颯志 | Reflexes |
川田 英二 | Theoria 024-04 |
吉田 桃 | 鳩の友人 |
岩村 隆昭 | 昆虫戯画:ナナフシはジャングルジムに登れるか? |
山下 哲郎 | 「型による型の中にある形」スルマの民のタトゥーから 24-11 |
山里 悠真 | 社会の洞窟 |
Gao Fei | 器の中に詰まっている自分 |
山本 佳奈枝 | 徳をつんだ人 |
黒田 智恵 | まどろみたわむれ |
楊 天峰 | 静観シリーズ・2 |
作者名 | 作品名 |
---|---|
テリー マッケーナ | Five Days in Nagano |
久松温子 | pour la mèlodie blanche : point |
富田 伸介 | 水面波 |
谷口 桃子 | noise |
南部 夢人 | 蠢動 |
原 健太郎 | Getting there |
東尾 文華 | 折に触れ全部覚えている |
酒井 重良 | 記憶の森 |
吉浦 眞琴 | 手出し無用無能の手招き |
SUMIFUDE | Klon |
椿一朗喜昭 | Yacht Harbor |
四方 果琳 | 夜のガソリンスタンド |
長谷川 崇平 | 無題 |
王 豫敏 | leaf,leave |
エグチ ジュンコ | ロケットマン |
児玉 太一 | Scenery over there_24_02 |
清水 稜太 | 耐えられない! |
藤原 聖也 | I'm lazy |
田中直子 | 芦生・灰野の根曲杉 |
若狭 陽子 | プレコ32才(3) |
大髙 聖依 | 鶏の美 |
道又 蒼彩 | fit in |
玉分 昭光 | He lives 父と兄 |
田中 千里 | 死の舞踏/肖像 |
武智 なつ子 | garden |
香焼 知佳 | Hakozaki |
キムスヨン | 遊んでいる子供たち |
大月 美歩 | ピカシェット |
山田 渓樹 | ぎゅうぎゅう |
鳥越 愛良 | "曖昧な庭Ⅱ" |
大浦 丈陽 | mixed |
北村 早紀 | Mt.White A |
曽我 祉琉 | 有象無象 |
小林 幹太 | 崩 |
李 佳遠 | Eros |
秋山 佳奈子 | wrapping paper |
齊藤 桜香 | あたたかなねどこ |
市川 香苗 | 廃墟とツインテール |
宮内 柚 | work6-6-1B |
土屋 朱織 | 刷り跡24-1 |
Nilsen Thea Larsen | Dazed |
正田 七恵 | 砂の上のミニカーⅡ |
城山 萌々 | Variationen |
濱島 良子 | scatter and gather |
大杉 祥子 | 白木野饗宴之図 |
戴 飴霏 | 帰り道 |
平田 詩織 | Self-portrait 24-5 |
菊野 祥希 | Rampage Printing |
霧生 まどか | last dress |
山田 笑歌 | series"dusk-to-dawn"2022.12_#4 |
佐藤 翼 | Will you hear me out? |
若月 陽子 | 佇んで見る/野 |
東弘 治 | 賢人たち |
鈴木 悠子 | Reflection |
鐘翊 綺 | 傾倒の姿 |
カノウジュン | Now and Here 04_17_2024 |
川澄 陽一 | 色即是空 |
武田 光弘 | 一本の線から |
唐澤 英明 | あきゆやけのとき |
井村 隆美 | 翳りの安らぎ |
松澤 輝代 | あらしの夜 |
野崎 緑 | 追い込まれた地球 |
望月 信幸 | ソレイユ |
阪本 幸円 | SNOW PRINT:NO.2024-1 |
中嶋 惠子 | Notebook<G.R.展にて> |
村松 範男 | 遠い記憶 |
島田 加寿子 | flaws |
武田 典子 | anything |
加藤 和歌子 | そこにある記憶 Ⅰ |
木本 匠 | 朝の冒険 |
太田 絵理 | 小さな世界で3 |
作村 裕介 | スコップと労働者 |
私は中国で中学生の頃から絵を描くことを学び始めましたが、日本に来てから自由に作品を創作することができるようになり、専門的な版画に関する知識に触れたのは、武蔵野美術大学に入学してからのことです。大学で版画は紙などの媒体に直接描くのでは出来ない、版を通じて独自の表現をすることが重要であるということを意識し始めました。私にとって版に傷をつけて印刷するという行為は頭の中の光景を捉える過程のようなもので、記憶の中の叙事は空間と時間的に正確に複製することができないイメージであり、これらの記憶と形が不確定で曖昧な光景を主観的に捉えて銅版に抽出する時、それらは確実性があり形状のあるコントロール可能な創造物になると感じています。
《88512963》は2022年から制作を始め、完成した小さい立体印刷物は約450点ほどで、今回の展示では落書きした木箱と55点の作品を出品しました。出品した作品は石膏刷りや段ボールなどに貼り付けられた断片化された版画と銅版豆本で構成され、木箱の上に網目状に沿って陳列されています。作品の中には残念な思い出の描写もたくさんありますが、悲しい記憶でも面白みのある描写を心がけています。
《88512963》の制作はコロナ禍になってから日本で中国にいる父とビデオ通話している際の喧嘩から始まり、その喧嘩で家族は鎖のようだと気づかされました。留学のため、私は自分の家族と離れて、日本に来て新しい生活を始め、以前触れたことのない日本の文化を勉強し、受け入れると同時に、元の家族文化は子供の頃から知らず知らずのうちに自分の性格と生活に影響を与えていると気づかされました。家族との関係、地域文化、教育方式、社会の変化など、家庭風景の中に潜り込んでいる文化が私の記憶を構成しており、日本の文化と社会環境の影響の下で、子供時代の記憶も主観的に変化しています。それらの記憶を捉えて版画にして小さな立体物に貼り付けてみました。新しく触れた文化の影響を受けて出来た小さい印刷物を、基盤となっている中国で育まれた家庭文化の象徴としての大きい木箱の上に配置し、私の意識のなかの二つの要素が作品の上で融合し響き合う場を形成したいと考えました。
日本で一人暮らしを始めてから、生活の中での人々の間の距離感にだんだん興味が湧いてきました。近くもなく遠くもない距離によって関係が保たれているように思います。そこで、私は小さな立体物を網目状に沿って独立した状態で、関係性を維持しつつ、一定の距離がある個体のように見えるよう配置しました。見る人はその距離感からも全体と部分の手がかりを発見し、一連の思い出とその中に隠された秘密を想像することで社会を投影し、作品と親密な状態でコミュニケーションが出来るように表現してきました。
今回の大賞を頂いたことは私にとって大きな支えと励みになり、これからも自分の制作方向と目標を持ち続け、より多くの感情を版によって表現し、今後の制作活動の中で自身の作風を維持し精進していきたいと思います。